SPECIAL

TVアニメ『キリングバイツ』
12週連続インタビュー
第6回 高梨康治(音楽)・西片康人(監督)対談

◆読むとメタルが流れる『キリングバイツ』

――それではまず、原作『キリングバイツ』の感想をお聞かせ下さい。

高梨 無茶苦茶面白いうえに「これ、メタルが凄い合う作品だなぁ」というのが第一印象でした。

西片 実は作画の隅田かずあさ先生がデスメタルが大好きで、執筆中もずっと聴かれているそうです。それもあってか、一番最初のアニメの立ち上げの段階から、音楽はメタルを書いて頂ける高梨さんにお願いしたいとなっていたそうです。しかも僕が監督になる前から(笑)。

高梨 ありがとうございます! やっぱりメタルが合うという印象は、皆さん一緒ですね。個人的には昔の王道メタルよりも最近のラウドロック寄りというか、ダウンチューニングの重くゴリゴリしたギターリフがハマると思いました。

――高梨さんは漫画を読まれる最中、ご自分の中で音楽を考えたりしますか?

高梨 そうですね。原作を読んでいると考えるというよりは、場面場面で音楽が勝手に浮かんできます。逆に作品に入り込めていないと、何も浮かんでこない(笑)。で、『キリングバイツ』は読んでいて自然にメタルが流れてきました。

西片 普段、漫画は読まれますか?

高梨 学生の頃から少年漫画誌をよく読んできましたね。中でも王道のバトル漫画が好きです。『キリングバイツ』で面白いと思ったのは、キャラクターが一人一人立っているところと、戦闘シーンが豊富な点です。しかもバトルがきちんと戦いに振り切れている。バトル中はその人の思惑とか恋愛話とか、戦い以外のものが入ってこない点も好きです。

西片 戦いがストレートなんですよね。伏線などはありますが、動物の特性を使った真正面からの戦いが描かれているんです。

高梨 ええ。純粋にバトルがスリリングです。あと、ヒトミさんが好きです(笑)。ツンとしたところが特にいい!

――高梨さんが担当されることになり、監督は音楽にどのような指針を立てられましたか?

西片 メタル路線ということと、あと裏テーマとして「カッコエロ」つまり「カッコいいエロ」に沿った音楽です。特にヒトミなんて戦っている姿はカッコいいですが、衣装自体は半裸だったりしますよね(笑)。そういったテーマを音楽でも出したかった。で、高梨さんに決まった時点で、ほぼお任せになりました。音響監督の明田川仁さんも原作を読み込んで音響メニューを作って下さったので、僕から細かいオーダーはありませんでした。

高梨 お話を頂いて原作を読み返したのですが、この作品、序盤以降は日常曲を使う場面がほとんどない(笑)。まぁ、その分バトル曲をいっぱい作れるので、僕はもの凄く楽しかったです。自分のことをバトル曲作家だと思っているので。

西片 そして数少ない日常場面では、笑えるくらい軽い日常曲をお願いしましたよね。ヒトミは女子高生と「ラーテル」をくっつけたギャップのキャラクターでもあるから、日常は日常で極端に振り切ろう、と。あの平和なリコーダーの音色が今でも耳に残っています(笑)。

◆全ての核となった「『ラーテル』のテーマ」

――高梨さんはどのように『キリングバイツ』の音楽を作られましたか?

高梨 他の作品でもそうですが、まずはメインテーマというか、核になる曲を作ります。『キリングバイツ』だったら「ラーテル」のテーマがバシッと決まると、そこから派生して他の曲も生まれてくるんです。同じバトル曲でも基準になるものがあれば、「緊迫感のあるバトル」「バトルでピンチの時」みたいにどんどん展開していきます。

西片 一番最初に高梨さんから頂いた曲は、ヒトミのテーマ曲に当たるM-01(※曲名:蜜獾THE RATEL)でしたよね。音楽リストにも一番最初にあって、凄いこだわりを感じました。

高梨 それって本当に個人的な好みですが、楽曲リストの頭はバトル曲でないと落ち着かないんですよ。最初が日常曲だったりすると、入り込みづらい。頭にガッツリとバトルを入れて、自分の基準を作った方がやりやすいんです。

西片 そのM-01、ヒトミのカッコいい場面でいつも入れています。

高梨 ありがとうございます! いっぱい使って下さって嬉しいです。

最初に生まれたメインテーマ・M-01は、どこから着想を得ましたか?

高梨 何も考えていません(笑)。原作を読んでいる内にふわーっと浮かんできて、「こんな感じかな?」と。狙って作ったわけではありません。ロック系は特に、カッコいいギターリフとカッコいいメロが出てきたらそれで勝ちというか…。僕はキーボーディストですが元々ギタリストなので、メタル系の時は特にギターリフから作り始めます。イントロの3秒がカッコよければ、そこから後のフレーズも生まれてくるんです。

西片 何度かお話する機会もあったのですが『キリングバイツ』は「深夜の格闘番組」というコンセプトがあって、M-01はまさにヒトミのリング入場曲ですね。

――その他にも『キリングバイツ』ならではの工夫はありますか?

高梨 ヘビーメタルというものは1980~90年代が全盛期で、ある意味オールドウェーブの音楽とも言えます。しかし現代でも脈々と受け継がれて進化しているので、今の時代に合った、近代的なメタルにしようと思いました。エッジが立っている、硬質な質感を持たせたかった。感覚的にはSlipknot以降の、例えばSystem of a Downみたいなサウンドでしょうか? 他にもEDMやトランスを取り入れたメタルサウンドもあり、M-01のシンセサイザーの入れ方はその影響です。The Prodigyみたいなテイストも入れてみたかった。

西片 M-01と一緒にM-35(※曲名:ENTER RATEL)も最初に頂きましたよね。M-35は大学でヒトミがエルザを追う場面でかけているのですが、最初はこちらがメインテーマだと思いました。でもそれからM-01を色んなシーンで使ってみると、どこでも凄いハマるんです。よく考えられている曲だなぁ、と驚きました。

高梨 ありがとうございます!! M-35は2バスの速い曲で、ある意味古典的なメタルでもあります。王道のメタルを意識しながら作りました。

西片 あとM-06(※曲名:THE COMEBACK)も印象に残っています。ヒトミとエルザが角供を相手に共闘する場面で使った曲ですが、この疾走感がお気に入りです。格闘ってまず熱さがありますが、M-06はそこにスピード感が加わり、リングの外でも駆け回っている感じがするんです。先程挙げた2曲とともに、これら3曲は『キリングバイツ』の重要な曲になっています。

◆格闘技もこなす異色のミュージシャン

――高梨さんは格闘技イベント「PRIDE」のメインテーマも作られています。格闘技についてもこだわりをお持ちだそうですが。

高梨 「PRIDE」の頃から格闘家の皆さんを間近かで見て興味を持ってきました。彼らには強いリスペクトを持っていて、それが高じて自分でも戦いたくなり、現在、僕自身が趣味で総合格闘技のトレーニングを始めて日々ハードな練習しています(笑)。

西片 それは楽器を弾けなくなるじゃないですか!?

高梨 まあ、自分との戦いなのでそこは仕方ないですね…。そうやって現実の格闘家と接していると、普段からアドレナリンがドプドプと出て、自分よりデカい相手と戦うことに喜びを感じてしまいます。音楽面でも得るものはもの凄く大きいです。

西片 まさにヒトミと同じ感覚ですね(笑)。

高梨 リーチで必ず負けるから、攻撃をかいぐぐっていかに中に入るか…とか、戦略が必要なんです。それが綺麗に決まった時は凄い達成感で、その感覚を知っていることは『キリングバイツ』の音楽を作る際に大きかったと思います。ヒトミが戦う時の、ワクワクした感覚もどこか共感できるんです。

◆格闘技と音楽のマッチング

――そして完成したアニメーションに音楽を合わせた際、手応えはいかがでしたか?

西片 『キリングバイツ』はファンの方からよく「テンポがいい」「ハイスピードで熱い」という感想を頂いているのですが、その部分は音楽の力が強いと思っています。映像に高梨さんの音楽が乗ることで、シーンの熱量がぐっと上がるんですよ。音響監督の音楽の付け方も素晴らしかった!

高梨 僕はオンエアを観て、音響監督さんの音量の調整技術に驚きました。台詞の入る時、空間が空く時…と、シーンごとの音の上げ下げがもの凄く緻密なんですよ。聴かせる場面ではガッと上げて、引くべきところではちゃんと下がる。上手いです! 曲を作った側としても「カッコよく使って下さって、ありがとうございます!」ですよ。本当、大事に使って頂けて嬉しいです。

――オンエアで、音楽面から注目して欲しい部分はありますか?

高梨 僕は曲を作ってお渡しした時点で、あとは皆さんが判断されるものだと思っています。皆さんそれぞれが楽しいように聴いて下さい。そして今回の音楽を作る際、皆さんに「好きに作って下さい」と言って頂けたことにも感謝しています。幸せな曲作りができました!

西片 高梨さんの音楽で本当にコンセプト通り、深夜の格闘技のような雰囲気が実現できました。入場曲があって、戦闘曲があって、フィニッシュの曲があって…と、バトルで必要な音楽がバチッとハマっています。格闘感とストーリーの流れ、そして音楽のマッチングが凄い上手くいった作品だと思っています。ぜひ音楽の面からも楽しんで欲しいです。

――それでは最後にファンにメッセージをお願いします。

高梨 きっと後半もバシバシとメタルサウンドが使われると思うので、「お茶の間にメタルをお届けしたい」という僕の思惑を一緒に楽しんで下さい。あと、サントラがBlu-ray第1巻 に同梱されるので、そちらもお手に取って、何度も聴き返して頂けると嬉しいです!

西片 オンエアは6話が終わったところですが、実は高梨さんには最初にお願いした曲にプラス1曲して、城戸のテーマを作って頂いたんです。これまでの深夜の格闘イベントが、城戸の冷たく恐ろしい曲で徐々に殺し合いに変わっていく…そんなイメージを感じて下さい。

ありがとうございました!

※各音楽はBlu-ray第1巻封入特典のサウンドトラックに収録されています。
※インタビュー内に登場した楽曲
M-01:蜜獾THE RATEL
M-35:ENTER RATEL
M-06:THE COMEBACK

PROFILE

高梨 康治 たかなし やすはる

作曲・編曲家。東京都出身。

ロックを音楽的原点とし、ハードロックとオーケストラを融合した重厚かつ華麗なサウンドを得意とする音楽家。音楽制作集団「Team-MAX」主宰、和楽器をフィーチャーしたロックグループ「刃-yaiba-」のリーダーでもある。

代表作に、格闘技『PRIDE』テーマ曲(2000)、『NARUTO-ナルト-疾風伝』(2007~2017)、『プリキュア』シリーズ(2009~2012)、『FAIRY TAIL』(2009~2016)、『美少女戦士セーラームーンCrystal』(2014~2016)、『タイガーマスクW』(2016)など。